あれから、犯人探しは続いた。




カットのことも、



かばってなんかいられない。





誘拐犯は誘拐犯だから





私は素直に、カットの行方探しにも協力している。



だけど、なかなか居場所の特定ができずにいた。




「ねぇー」


「何?」


「あいー」


「何?」


「犯人いつ捕まるんだろー」


「え」


「もう、1ヶ月たつのに情報ゼロ。こりゃ無理だね」



犯人探しに時間がかかっていることは



私の中で最も深刻だった。


もっと早くにカットのことを言っていれば


もっと早くに、犯人が捕まったかもしれない。



「無理じゃない、絶対捕まるから」



陽太は、いつから私たちの話を聞いていたのかわからないけど



そう言い放ってすぐに消えてしまった。



陽太の強い思いは、


私のところに充分伝わってきてる。



だけど、


どうしても、見つからない。


こんなに探しても見つからないって、



やっぱり探し方が足りないのかもしれない。


もしかしたら、海外に逃げちゃったとか。






私は机の上を整理して、


理科室に向かった。


「あれ?」



廊下で私が見つけたのは、


近くのコンビニの宣伝用ポケットティッシュ


の紙。






紙がぐしゃぐしゃになっていた。


いつもなら、目にとまることはないが



今日は、何故か自然とその紙が目に入ってきた。




とりあえず、あとでゴミ箱に捨てようと思って


ポケットの中にずっと入れておいた。







案の定その紙を学校で捨て忘れて、



家に持って帰ってきてしまった。



私は帰宅部だ。


帰宅時間は人より少し早い。


勉強をしていない時間は、



本当に何もすることがなくて、暇に襲われる。


陽太だって、委員会で遅れて帰ってきたりするから


平日の本当に何もない日の午後は凄く暇だった。



「ちょっと出かけてくるー」



思いついたのは、



さっき廊下で拾った紙に書いてあった店に行くこと。



家に捨てるのもなんだかつまらないので、



わざわざ、手間をかけて


宣伝されている、コンビニで捨ててやろうと思った。




そのとき、私の心はなんだかむしゃくしゃしていた。






完全に嫌がらせ、

単なる憂さ晴らし。





私は、紙をゴミ箱に捨てる前に


わざわざ、歩いて10分のこのコンビニによることにした。



近くにあるとはいえ、


まだ来るのが2回目だった。




一見狭そうに見えるが入ってみると意外と広い。




入り口付近にはドコのコンビニにも精通する、



レジと、カゴの山。


そして、雑誌の数々。



私は軽く本を立ち読みして、


ペットボトルの飲み物を買って帰ることにした。



「いらっしゃいませ」


私の目の前には男の人がいた。


自分より少し背の高い人。


「あ、袋いらないです」


私が目線を上にあげると、



どこかでみたことのある顔が目に映った。






この人、、、


一ヶ月前のあの人。。。。






















あのときの誘拐犯!?




















私はレジの人と目線を合わせようとした。


だけど、なかなか合わなかった。




相手が私のことに気付いたみたいだった。



私は、話しかけてみることにした。


「前にもお会いしたことありますよね」


私はそういいながら、レジの人に見えないように


体のうしろに携帯をまわして、110番の番号を押した。



「この間、私を誘拐した・・・」



「違う、俺じゃない。俺は違う。別の人だ」


「同様しすぎ、バレバレですよ」


「うるせぇ!黙れクソガキ。そうだよ、俺がお前をこの間誘拐した」


私はその言葉が終わったとき、


携帯の電源を切った。



誘拐犯はあっさりと自白をした。


私が思っていた以上にあっさりと。


「自白したね」



「お前まだ生きてたのか、俺の顔もしっかり見たようだし
 やっぱ殺すしかねぇよな」



レジの人・・


いや、誘拐犯はレジの上においてあった


カッターを持って私に近づいた。



「お前なんて、さっさと死ねばいい」


カッターの刃が私の肩をかすめた。






私は、誘拐犯の表情を窺った。


隙をついて、カッターを奪おうと思った。



この男は、間違いなくまた私を斬りつけようとしてくる。




すると、コンビニの自動扉が開いた。





「何してくれてんの」



「お前、この間の」


「この前は何もできなかったけど。
 今は、守らなきゃいけないやつがいる」


「ガキはガキ。どうせ皆一緒だよ」



私はその会話を聞きながら、


さっきかすめた自分の左肩の様子を見た。


服ごと切れいて、


物凄い量の血が出ている。



肩が切れても、こんなに血が出るんだ。


そうだ、全身いたるところに血管が沢山通ってるから



これは当然の結果なんだ。




流れ出る血を見ながら、私は



それから少しの間の記憶をなくした。


















気がつけば私の視界は、真っ白だった。


ちょっと目線を変えれば、銀のカーテンレールが見えた。



「嘘だ・・・」



「嘘じゃない」



独り言を言ったつもりが、


言葉が返ってきた。



その冷たい言葉使いは、



きっと陽太だ。


「何でここにいる?私は・・」


「左の肩、見てみ」


私は、自分の左肩をみて驚いた。


包帯がぐるぐる巻きになっていて、


動かそうと思っても、動かなかった。



「陽太、口の横なんで切れてるの?」


「ちょっと、やられた」



私は突然思い出した。


コンビニに行って起きたことを。



「誘拐犯は?」


「誰が呼んだかはわからないけど、警察が来て連れて行かれてた」


「私が呼んだの」


「いつ?」


「誘拐犯と話してる最中に、体の後ろで」


「色々大変だったんだな、悪い。もう遅いから帰るな」




そのとき、カットの居場所も突き止められて



カットも同時に警察に連れて行かれたらしい。


私は、もうそのことに関しては一切考えるのをやめた。


自分が辛くなるのが嫌だったから。



寝返りの打てないベッドがとても、苦しかった。


左肩が動かないだけで、他は全て正常に動かせるのに。



一箇所の機能を失うだけで、



ここまで不便な生活を強いられなければいけない。



凄く、辛かった。


また学校は休まなければいけなかった。


1週間たてば、病院を出ても良いとは言われていたが


さすがに、普段学校に行っている分の時間は 


とても、暇だった。





陽太は毎日病院に来てくれた。









「俺、お前が倒れたとき死んだかと思った」


「何で?」


「だって、息してなかった」


「血が抜けてったからねぇ・・」



「でも良かったよ、元気そうで」


良かったよ。




この言葉が陽太の口から聞けるとは思っていなかった。



いつも、ツンツンして


ことあるごとにトゲある言葉を吐く陽太の口から


吐き出される優しい言葉は、




私にそって安らぎだった。



「そういえば、血って・・誰かの血輸血してもらったってこと?」


「あぁ、、そうだな」


「誰の!?」


「俺の・・・・」


陽太の血が私の体の中に入ってる?





「ありがとう、陽太」



陽太は、私に背を向けた。



下を向いて、何かを見ていたようだった。


「悪い、俺帰るよ」


小さな声で、そうつぶやいて。 








陽太がさっき下を向いて何を見ていたのか気になった。



できるだけ身体を動かさないようにして、


私も陽太と同じところを見た。








目の前には、スポイドで落とされたような



水の粒のようなものがあった。 





陽太は



私に背を向けた後、涙を流していたらしい。




あの、いつも強気な陽太の見せる



弱い一面を




私は、




彼の流す涙という形で、



みることになった。
















2007.3.4(Sun)
涙の恋END


inserted by FC2 system