凄い不安の中、



思い切って私は、家のドアをあけた。



ガチャ



「ただいま・・・」



なんと、あかないと思っていたそのドアは


普段となんらかわりなく、


あいた。


「利香・・・・・」


両親が出てきた。





「おかえり」



私は、何も言い返さずに自分の部屋へ直行した。


親もまた、そんな私の後を追う気配もなく


すんなり私を部屋に行かせてくれた。






久々に入る自分の部屋はなんだか新鮮だった。


いかにテント暮らしが辛かったかが


凄くよくわかった。


勿論、私がいなくなる前と同じ部屋の状況で



時計の針だけがずっと動いていて



少しだけテレビの上にほこりが乗っかっていた程度の変化。



何も変わってない。






カバンの中の携帯を取り出した。


車の中にいたときは、


とられてなかったけど、



カットがこの間返してくれた。



警察に電話すればすぐだったけど



どうしても私はそこまでに踏み込めなかった。



メールが何十件も来ていた。




どこにいるの?

みんな心配してるカラ!

早く学校来いよ。

風邪引いたの?




こんなに心配してくれる人がいた。



もう居場所がないなんてことはない。




早く帰ってこれて、良かった。



心を落ち着かせてから、私は家族のいるリビングへと向かった。



夜中なのに、まだ電気がついていた。


誰かいないのかと探してみると


母がキッチンで何かを作っていた。



「あ、いたの?」


「何してるの?」


「利香夕飯まだでしょ?だから作ってるのよ」


「ありがとう」


「何?珍しいね」


「だって、理由何も聞かないじゃん」


「利香だから信用してるの」



信用 




私の頭の中に、信用なんて言葉


あったんだろうか。。



「ほら、できたよ」


目の前のテーブルに並べられたのは、


マーボー豆腐とエビチリとご飯。


完全な中華料理だった。



山でずっと食べていた、魚とかじゃなくて


ちゃんと調理されているもの。


久々のまともな食事が、嬉しくて仕方なかった。




翌日、2年生になって初めての登校日。


確か1組だった気がする。


2日間学校を休んで、授業にまともについていけるとは思えない。


新学期で、しょっぱなから欠席して


最悪にもほどがある。


1年生のときは、あいと待ち合わせして学校に行っていた。


今日は、久しぶりに待ち合わせ場所に向かった。


家の近くのマンションの、不思議に目立つ大きな公園


滑り台の前。



私は以前のように、7時30分にそこに向かう。



私の来る方向をじっと見て、


いつも私より先にいるあいの姿・・・・



また今日も、前と同じように



あいは待ってくれていた。



でもあいは、私が誘拐されて休んでいたなんてことを


当然知らない。





「おはよ、行こうか」


嘘・・・


あいもお母さんと同じことするんだ。


何も気にしないで、


あたかも何もなかったのように振舞って。


何で、、。



「ねぇ、あい」


「あ、そうだ。利香がいなかった分のノート取っておいたんだ」


「ありがとう」



それなりに気を使ってくれてるのかもしれない。




学校に着いた。


下駄箱の場所を教えてくれた。


新しい教室での座席の位置も教えてくれた。


友達も紹介してくれた。


ノートも見せてくれた。


私が抱えていた不安を全て先読みしていたように


あいは、不安を全て取り除いてくれた。



「ごめんね」


「え?」


「いつも迷惑かけちゃって」


「ううん、迷惑じゃないよ」


そう言ってくれるあいを、私は物凄く信頼している



「あ」


私の目の前で実が立ち止まった。


「久々だね」


「利香、、」


実はずっと下を向いたまま顔を私には見せなかった。


「実、落ち込んでるんだよ」




「だって・・俺が無防備な言葉いったから学校休んだんでしょ」



「え?あぁ、、それ勘違いだから」


実は顔を上げて驚いた。


そんなに気にしたのかな。


「全然そんな理由じゃないから」


「じゃぁ何で休んだの?」


ここで、休んだ理由を言うと


大事になるような気がする。





私は、誘拐されたので学校を休みました。




なんて言ったら、先生に呼び出されて警察にも色々聞かれるに違いない。



絶対答えたくない。


誘拐されたことは、誰にも言いたくない。







廊下に出た。




すると目の前を陽太が通った。 


「陽太」



「利香、、今空いてる?」


「うん空いてるけど・・」


「やっぱいいや、昼休みに体育館来て」


「う、、うん」



陽太は、私を昼休み体育館に呼び出した。


体育館のドコに行けばいいんだろう。。



「あ」


私は目の前に落ちている、白い紙に気付いた。



白くて、4つ折になっていて


その紙の中には何か書いてあった。


「鐘が鳴る前に入ってきたら、駄目だよ」


意味がわからなかった。



 




そのまま、時間が経って


時は、昼休み。



私は言われたとおりに、体育館に向かった。



私の横を何百人もの生徒が横切って、



体育館に向かっていくのが見えた。


全校生徒を誘って何かしようというのだろうか。





体育館の重いドアを開けると、


全校集会が始まる前のときのような



生徒のざわつきを見た。



私は、なんだか余計不安になって


ドアをバタンとしめてしまった。


「逃げんな、アホ」


陽太がドアを開けて言っていった。


そして、私は陽太に引っ張られて


体育館へと入った、。






「何かあんの?」


「ステージ上がって」


「だから何?」


「リンチ」


リンチ!?


私ここでいじめられるのか。。。



「授業始まったらどうすんの」


「大丈夫、昼休みは30分もある」 



ステージの上に上がったとき、



体育館中の電気が、


ステージ側だけ5つついた状態になった。





今の状況は、



全校生徒が収容された体育館で


陽太と私が2人でステージに上っていて


これからコントでもやるみたいに、


陽太と私の間に、マイクがあって


陽太は何があるか知っていると思うけど


私は何も知らない。






そして突然陽太がマイクに向かって喋りだした。


「俺達、見ての通り付き合ってるんだ」


静かな雰囲気が続く。



「新学期早々、2人で学校を2日間休んだ」



「陽太・・もしかして」



「俺達はその2日間、家にいたわけでもない。
 ホテルにいたわけでもない
 山にいた、、誘拐されてたんだ」



誘拐されていたことを全校生徒の前で言って


陽太って やっぱ、、


何を考えているかさっぱりわからない。


先生にも言っていないことを


生徒の前で言って






わからないよ。







「陽太、その話はやめて」


「俺は誘拐したやつを許さない。
 たとえ2日でも、俺達を不自由にさせた




 犯罪者のことを




 絶対に許さない」



「陽太・・・」


「俺は顔を覚えてる、似顔絵とか情報はチラシ貼っておいた。
 見つけたら、教えて。じゃぁ解散ってことで」


全員が、


陽太の解散という言葉に反応することはなかった。



その場で凄くざわついた雰囲気になった。


「陽太、何であんなこといったの?」


「犯人捕まって欲しくないのかよ」


私はただ、カットが心配で・・。



誘拐犯の1人だから早く捕まって欲しいっていうのが


普通なんだろうけど、



どうしても、カットのことだけは



かばいたかった。



「捕まって欲しいけど、、」


「利香、カットのこと好きなの?」


「え?」


「俺より、カットの方が好きなの?」



カットのことを、突かれて私は正直あせった。







好きじゃない。



カットは、深い傷を負って


私と同じ状況で、


やっぱり、振られた女の人ともう一度よりを戻したほうが


カットは幸せになれる。



そして、私は今陽太と付き合っていることで


凄く幸せだ。


だから、カットのことを好きになった時点で


お互いに幸せになんかなれない。





「カットなんか好きじゃない」



会場のざわつきが、一変した。


「本当かよ」


「だって、私は今陽太と付き合ってる。
 好きな人が他にいたら別れてる。  嫌いだったらとっくに別れてるし」



「いつまでもそう言える自信ある?」


「うん」


私の心に迷いはなかった。



カットのことは、ただの・・。


陽太の勘違い。


そう見えただけ



 
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