「好き」
























「俺も」






陽太と私の目が合った。




そして一瞬にして、目の前が真っ暗になった。









もしかしたら、また目隠しされた・・・・



















そのとき、何かが触れたような感覚があった。



「ごめん」




そのとき私は初めて、



陽太の口から、優しい言葉をきいた。





とげのない、


自然とでる優しい言葉を


初めてきいた。


「別に・・・」



どうしようもない、この場の状況に多少あせった。


私と陽太は、今


付き合っている。



まだこの現実に慣れていない。



付き合い始めて、20分



1週間たてば、



もっと仲良く慣れるのかな。 


一ヶ月たてば、



もっともっと仲良く慣れるのかな。


1年たてば、


陽太に飽きているのかな。














だけど、やっぱり




私は誘拐されている。




この状況に一切変わりはない。



学校にも行ってない。



友達にも会っていない。


いくら側に彼氏がいても、


いくら側に陽太がいても、 



私は結局、



見たことのある、知らない男に




誘拐されている。




どんなに辛くても、抜け出そうとすれば



すぐに殺されるだろうし。



「ねぇ、陽太」


「何?」



「これから、私に命預けてみない?」


刑事ドラマの見すぎかもしれない。



こんな言葉がとっさに思いつくなんて。 



私は、二人でここから抜け出そうと陽太に伝えた。



このままいても、誰も助けに来てくれない。


こんな高いところにあって、殺風景な場所には、誰一人と訪れない。


「その逆で」




途端に私の腕を引っ張って、



物凄い勢いで地面を蹴って



全力疾走。





後ろを向くと、 



誰も追ってきていない。



夜あんなに話したカットも



私がここにいることに気付かずに。






山の中腹に来ると、減速して


走るのをやめた。



「陽太・・」




「俺等、このまま行けば山下りられるよ」




陽太が通常の5倍くらい格好良く見えた。



外は、明るさを失っている。



カラスの鳴く声もほとんど聞こえない。


今は、不気味に光る満月が目に入ってくる。



「どうしよう、真っ暗だけど・・」



「歩こう。早く降りて警察に連絡しないと」



強く二人で決意した。



手をつなぎ、


道なりに歩くその先は、


確実にふもとに向かっている。




50Mおきにある小さな街灯を頼りに私たちは歩いていった。




多分もう5時間くらい歩いていると思う。



会話はほとんどない。



だけど、かわらず手をつないで歩いている。



それだけで、今はなんとなく幸せだ。



「あれ山小屋?」



「本当だ・・・」



小さな山小屋を見つけた。



その山小屋の向こうに下る道はない。


おくに見えるのは、ちょっとした住宅街だ。


「今日あそこに泊まっていかない?」



「いや、帰りたい・・」


「いいじゃん」


何故か帰らせない陽太を尻目に私は



足早に帰路を進んだ。



「あそこ、交番っぽい」



10分くらい歩くと、交番を見つけた。


そこらへんの交番よりは少し大きくて


たまに通るといつも人がいる。



ちょっと入りづらい交番。


「すいません」



「君達、こんな遅くまで出歩いてたら家の人心配するだろう」



お巡りさんはかなり怒ってたけど、


仕方ない。










私たちは、



覚えている限り誘拐されたときのことを話した。




「顔は覚えていないのかい?」


「俺はわかんないけど」



私の顔を見て、陽太が言う。



「初めて見たときは、制服着てました」



「顔の特徴は?」



「どこかで見たことのある顔で」


「他には?」


「覚えてません」


顔がわからないと、手がかりが不十分で


捜査がちょっと大変になるらしい。


あたりまえだけど。





この交番には、


私たちに色々と話を聞く人と


話した内容を事細かにメモする人の二人がいる。


普段は、三人くらいいるらしいが


パトロールに出ているらしい。




交番内の、ホワイトボードに書いてあった。


「何人くらいいたとかは?」


「2人です」


一晩語り明かしたカットのことを言うべきか迷った。


私たちを誘拐した犯人のことは、物凄く憎い。


今でも勿論腹が立つ。



だけど、カットのことだけは


守りたいと思った。


だからカットのことだけは、


交番の人に言うことができなかった。


「他に何か情報とかある?」


「私より少し背が高かった」


「170センチくらいか」



その後も色々と話をした。


だけどやっぱりカットのことは言いだせなかった。




「それじゃぁ、今日はもう帰りなさい」


「はい、よろしくお願いします」



交番の中にあった時計の時刻は、夜中の1時ごろだった。


大分この中にいたみたいだ。


誘拐されたときは、早く家に帰りたいと思った。


山を降りるまでは、早く家に帰りたいと思った。


でも今は、



帰りたくない。



今までこんな遅い時間に家に帰ったことなんてない。


家の門限ははるかに過ぎている。


基本的に8時になれば家の鍵はしまって、


客人以外誰も入れなくなる。 


今家に帰っても誰も出てくれない。



私がただ夜遊びをして帰ってきてないということになっていたら


私の居場所はもうどこにもない。


学校に行くにしても、 



制服は今着ているけど、勉強道具がなきゃ


意味がない。



















今、私の居場所って





あるのかなぁ・・・。









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