私はすぐに一目惚れするタイプだった。



ちょっといいなと思ったら、



その人がタイプになる。



でも、



公輔を昔好きになったのは、



本当にその性格と、容姿の全てを好きになったからだった。




でもそれ以上に、



前に付き合っていた彼氏は、



完璧なものを持っていた。




でも、中2で別れてから



私は恋愛から遠ざかっていた。



トラウマとかがあったわけじゃない、



恋愛することに、もう疲れたのかも。



受験勉強に集中したくて、



男という男は全て切った。







放課後、



部活があった。



文武両道を育てる進学校として名高いうちの学校が



唯一成績不振であるとする部活が、



私のいるテニス部だった。



硬式のテニス部は、



コーチに恵まれて強豪チームになったが



軟式テニス部だけは、



どうもうまくいかないみたい。







「大月、ちょっと」



顧問に呼び出されて私は猛ダッシュ。



水をまいていないせいで、



土ぼこりが辺りに舞う。



「先生なんですか?」

「授業中に携帯使ったのか」

「電源切るの忘れてただけで、たまたま着信鳴っただけです」



何で、この人知ってるんだろう。



「たるんでないか」

「違います」

「俺はお前を団体戦のメンバーにしようと思っていたんだ
 実力もあるし、頭も使える。
 背も高いから、上からの攻撃にも使えるからな
 だけど、この件で少し考えさせてもらう」

「待ってください、本当に電源切るの忘れてて」



事情を理解してもらえずに、



顧問の先生は、私の話を聞かなくなった。



腕を組みなおして、



先輩たちの練習にひたすら精を出していた。




たった1回、電話がなっただけで



団体戦のメンバーから外された…。



ショックで仕方なかった。



何もかも、



公輔のせいで…



あの電話さえかかってこなければ…。




今日は練習を中断して、



家に帰らせてもらった。



ベッドの上で私ははききれなかった思いを



全てはいた。 



丁度そのとき、



公輔から、電話がかかってきた。



「何?」

「何で機嫌悪いんだよ…、電話しただけなのに」

「その電話が嫌なの!」

「何かあったのかよ」

「授業中に電話が鳴って、
 それが原因で、テニスの団体戦のメンバーから
 外されたの」

「それは悪かったな…」

「今更遅いよ」



私は電話を切った。



携帯の電源も切った。



そしてそのまま眠りについた。




この日から私は、



学校に携帯を持っていかなくなった。



こんなのを学校に持っていくから、



あんなことになったんだ。



どうせ、授業中は電源切らなきゃいけないんだし



必要ない。



勿論その後、携帯のことで先生に注意されることはなくなった。



だけど、



テニスの団体戦のメンバーからは、



外されたままだった。



失った信頼を、



携帯で失った信頼を、取り戻せなくなっていた。



だけど、私は毎日練習に取り組んだ。



「大月、来い」



顧問にまた呼び出された。



流石に2度目の呼び出しには、



一緒に練習しているみんなの目線が痛かった。



「なんですか?」

「お前最近練習頑張ってるな」

「有り難う御座います」



やっと私が認められた、



心の中で小さくガッツポーズをした。



「だがな、お前のやったことは重いぞ。
 俺はテニス部の顧問である以前に、この学校の教諭だ
 勉強に集中出来ない環境を作ったお前のことは
 許すことは出来ない」

「先生…」

「それにお前、最近彼氏が出来たからって浮ついてないか?」

「言ってる意味がわかりません」

「公輔っていう男と付き合ってるんだろ?」

「付き合ってません」

「公輔ってヤツと別れるまで、団体戦のメンバーには入れない」



先生の言っている意味は、



本当に良くわからなかった。



私は公輔と付き合っていないし、



それに、



公輔と連絡を取っていることなんて、



誰にも言ってないし、



顧問の先生が、公輔のことを知っているわけないし。



立ち去ろうとする先生を、私は呼び止めた。



「先生、私は誰とも付き合っていません」

「嘘をつけ」



先生は厳しい口調で怒鳴りつけた。



「お前が、男と付き合いだすと
 すぐ顔に出る。試合形式の練習だって時たま不調になる
 良いボールが打てなくなる」

「私まだ入部したばかりですよ?」

「俺にはわかる」

「先生!」

「今すぐ別れろ」

「付き合ってません」

「いいから別れろ、さっさと別れろ」



先生の声がだんだんと、頭に響いてきた。



繰り返し「別れろ」という言葉が、近づいてくる。






そのとき、私はいきなりベッドの上に立たされた。



夢か…… 



私はもっと冷静になるべきだった。



公輔のことを知るはずのない先生が、



あそこまで言うなんて…。



それに、私は本当に公輔と付き合っていないし。





私はどこからが夢だったのか未だによく理解できずにいた。



携帯を置いて、家をでるまでは。




私は、遠目で公輔の姿を見た。



そしてこっちに向かって走ってきた。



「おはよう、そして久しぶりー」



嫌にテンションが高い公輔は、



ワイシャツのボタンを2つもあけて、



学ランを着ているのに、どこか私服のような着こなしだった。



「何で来たの?」

「お迎えに来たのー!一緒に学校行こ!」

「ダメだよ、こんなとこ見られたらまずいし…」



これだ。



一緒に歩いているところを、勘違いされて



顧問にあんなに怒られた…



あれはきっと、予知夢だったんだ。



「私、本当に団体戦のメンバーになりたいの
 一緒に歩いてるとこ見られて、勘違いされたら困るし」

「勘違い?何が?」

「付き合ってると思われたら困るの、じゃあね」



私はその場から、物凄い逃げ足で立ち去った。



一瞬でも見られたら、



団体戦のメンバーには到底なれない。



別れろとか意味不明なこと言われちゃう。





その日の部活で、



私は夢と同じように、



顧問に呼び出された。



そして夢と同じように、みんなの目線が痛い。



「お前、団体戦のメンバーになりたいか?」



言われた言葉が違う。



「はい、なりたいです」

「お前、明日の大会にコイツと組んで試合にでろ。
 それで良い成績が残せたら、団体戦のメンバーに入れてやる
 色んな事情があっても、お前が本当に強いということを
 俺に見せてみろ」



コイツというのは、同期に入った子で



基本的な実力はちゃんとある。



だけど明日の大会は、



3学年全員が、出揃う大会だ。



基礎がどれだけ身についている人でも、



その基礎を上回る人が何人もでるこの大会では



通用しない。



あの手この手で、勝ちに来る。



大会は明日だ。



今日のうちにできることはないだろうか…。



私は前衛だから、



後衛の子を疲れさせないように、出来るだけとって



後ろにまわさないことが大事かな。



そう思って、私は一発で決めることのできるスマッシュの練習をした。



ペアの子は、球だしがとてもうまい。



たまに鋭さはなくても、



正確無比な球出しは、天下一品だ。



1年生がこの大会で、良い成績を残すのは



不可能かもしれない。



だけど、



やるしかない。



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