「教科書開いて」





授業中は本当に退屈だった。




進学校の授業に、



お喋りや、居眠りはありえない。



鉛筆一本落とすのにだって、



勇気がいるくらいだ。



静まり返って、



先生の声しか聞こえない。



全員が必死になって授業を聞いている。



だが、



休み時間は、流石に気が抜けている。




「今日お昼ドコで食べる?」 


「購買混んでそうだから、外でない?」



真面目な人たちと、こんな会話をするのが



本当に楽しい。



「ゴメン、携帯なってるからでるね」



私の携帯に着信音が響いた。



「もしもし?」

「俺だけど」

「誰?」

「公輔」

「こうすけ?」

「うん」

「何で番号知ってるの?」

「お前の友達に聞いた」



公輔は、



私と小学校からの付き合い。



近所に住んでるくせに、なかなか会う機会もなく



高校生という身分になってしまった。





この電話の最中に、



チャイムが鳴った。



「ごめん、きる」



私は急いで携帯電話の電源ごと切った。



遅刻なんかしたら大変なことになる。



単位単位単位単位。



授業に1コマでられないだけで、



皆に思いっきり遅れをとる。







「大月、廊下に出てろ」







突然、さっき電源を切ったはずの携帯電話が鳴り出した。



なんで?どうして!?



確かに切ったはずなのに。



私はすぐに廊下に立たされた。



だが、私は体調の悪いフリもしつつ



お腹を抑えて、トイレに逃げ込んだ。



「何でこんな時間に電話してくるの!?」

「だって急に電話切るから」

「授業中に電話できないことくらいわかるでしょ」

「しらねぇよ」



私の声がトイレの中に響いてしまった。



あわてて声を小さくする。



「そこまでして電話するなんて、なんか理由でもあるの?」

「は?」

「緊急に電話しなきゃいけないような、用件でもあるの!?」



そのとき、誰かわからないけど



遠くの方から、人が歩いてくる音が聞こえた。



コツコツと、ヒールの音がする。



女の先生…?



公輔との電話も聞きながら、



聞こえるヒールの音を気にした。



「お前俺と付き合えよ」



直球だった。



「何やっているんですか?」



さっきのヒールの持ち主が、私の電話に気付いてしまった。



「今すぐ電話を切りなさい、授業中ですよ」

「はい、わかりました…」



電話を切れといわれても、 



あんな話の後だから、さっきみたいに



すぐに切るわけにもいかないので、



切ったフリをして、制服のポケットにしまった。




先生がいなくなったことを確認して、



私は、公輔との電話に戻った。



「悪かったな、授業終わってからまたかけなおす」



急に強がってた態度が変わった。






丁度チャイムがなり、



お昼休みになった。



予告通り、電話がまたなった。



「葵今日は携帯フル稼働だねぇ、モテ日?」



友達が冷かしてくる。



「もしもし」

「アドレス教えろよ」

「え?」

「電話だと、いつかけていいかわかんないから」

「わかった」



アドレスを口頭で説明するのには、



物凄く労力が必要だった。



「じゃぁな」



アドレスを教えた途端に、電話を切って



電話を切った途端に、メールが来た。




アドレス、
登録よろしく。

公輔。 




男らしいさっぱりとしたメール。



絵文字なんて一つもなかった。




私は気持ちを切り替えて、



友達のところに戻った。



お昼の途中だった。



「葵どうしたの?」



「授業中に電話とかありえないよ!」



周りの友達からは言われ放題だった。



「電源切ったつもりだったんだけどさ」

「誰からなの?電話」

「中学のとき一緒だった男友達から」

「仲良いの?」

「今日初めて電話した」



自分の正面に座っていた友達が、



何故か、持っていたから揚げをテーブルの上に落とした。



「どうした?」



「そんな人の為に、授業抜けちゃうなんて…」

「そんな人の為にって…、想定外だから仕方ないよ
 鳴ってほしかったわけでもないから」



かけられる言葉が、授業とか学校とかに関することばっかり。



「その人、なんて?」

私は皆に顔近づけて



というように、手招きした。



「俺と付き合えって」

騒がれると思ったら意外に皆冷静だった。



「返事は?」

「返事しようと思ったら、
 先生来ちゃって、携帯隠して
 その後返事しようと思ったら、切られちゃった」

「何て返事する予定だったのさ」

「2人で話すのも、会うのも別にかまわないけど、
 付き合うのはなんか違うかな」

「何が違うのさ!」

「まぁ…」



全く興味がなかったわけじゃない。



小学校のときは好きだった。



だけど、中学に入ってクラスが離れて



興味がなくなってしまったといえば、



それまでだし、



私は他の男と付き合っていたし、



公輔もまた、他の人と付き合っていた。



高校に入っていきなりそんなこと言われても、



もう手遅れだった。



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